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第二十八話 微笑みが全てを狂わす

last update Last Updated: 2025-08-16 14:00:00

二十八話 微笑みが全てを狂わす

エンスは今回の事で宮殿を閉じる事にした。自室の空間を増幅させ、作った居場所は俺達にとっては急患所でもあった。それを潰す事は、これから急患が出た時に、大変になるだろう。その事を聞くと、どうやら国王に離れを使うように、言われたらしい。

「やはり、私の自室にあるのは、ちょっとね……」

何かあった時に、すぐに動けるように、自室にある方が楽だと考えたのだろう。しかし、今回の騒動が原因で追及をされたらしい。そして、俺のあの姿を見て、別の場所でした方がいいと判断したらしい。

「また、同じ事が起こったら……さすがに私も」

エンスの言いたい事は分かる。結界を張る事で自室に影響が行かないようにしていたが、その結界をレイングが破ってしまった。通常の結界の上から、攻撃魔法を書き加えたグレイにも原因があるだろう。いつの間にか宮殿の中だけではなく、エンスの自室もボロボロにしていた。言葉の力を使った事で、水道は破れ、水浸し。そして、俺とラウジャの交わった残り香がぷんぷんと異臭を放っている。

俺も全てが終わった時に、現状がどうなっているかに気づいたのだが、時すでに遅し。

「自室も変わる事にしたのです、何せ、匂いが……」

当てつけのように言って来るエンスに対して、罪悪感しかない。それ以上の感情は、蓋をしてしまいたい気分だった。

「すみませんでした!」

それしか言えない、それ以上も、以下もない。この謝罪だけでどうにかなるとは、考えていないが。せめて自分の気持ちは素直になりたいと思ったんだ。

「ん」

周囲が騒がしいのに、眠りこけていたラウジャは、微かな声を挙げると、皆の視線を集めた。

俺はラウジャに近づいて、彼の頬に手を添えると、ゆっくりと目を覚ました。寝ぼけているラウジャは、自分が何処で意識を失っているのか理解していない。

一つ一つ、説明するのは後にして、生まれたままの状態になっている彼を隠すタオルを巻き付けていく。

「ハウエル、何して」<
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    二十三話 違う色 俺は言葉の重要性を履き違えていた。いつも自分の事ばかり考えていたからだろう。自分の吐く言葉が、キャラクターにどんな変化を与えるのかを理解出来ていなかったのかもしれない。 それを知るのはまだ先の事だ。少しずつ友好関係を結んでいたはずなのに、歪みが出来始めていた。 レイングが部屋を出てから、随分と時間が経過した。最後の彼の言葉を、何度も何度も頭の中でリピートしている。 何を示しているのか、どうしてあんな事を言ったのか分からない。それはレイングだけが知る秘密の一つなのかもしれない。 掴まれた腕が熱くなって、冷めてはくれない。まるで彼の感情が炎を作り、俺自身に注がれているような感覚だった。 俺は目を瞑りながら、頭の中で整理をしている。自分がこれ以上、パンクしない為の処置だった。切ない瞳が、いつまでも俺の心を掴んで離す事はなかった。 吸い込まれるように、眠気が襲ってくる。うつらうつらと時の流れを感じながら、意識を手放した。 いつまでも好き勝手していてはいけないと、エンスから仕事を貰った俺は、大量の資料を抱えながら、騎士団へと向かった。この書類は所謂、給料の明細に当たるものだ。全てを計算して、不備がないかを確認し、一人一人に渡していく。本来なら王子がする仕事ではない。 最初は、自分の立場を考えて欲しいと止められたが、コミュニケーションを図る為だと、言いくるめる事が出来た。こんな、あっさり引き下がるとは考えていなかったが…… 「おはようございます、ハウエル様」 「おはよう、グレイ」 騎士団で一日の騎士達の体調管理を任されているグレイが声をかけてくると、柔らかな表情で対応する。 最初はいかにも作り笑顔って感じだったが、一度、慣れてしまえばお手のものと言った所だ。 彼は長い髪を一つ括りにしている。騎士団に所属している者は皆、髪が短いが、彼だけは例外だった。他の部署にも自由に出入りが出来るようで、エンスの所で見かける事も多々ある。

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